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第11回 英語のことわざを活用しよう 2

英語教育 温故知新

2024年5月17日 更新

米田進 秋田県教育委員会前教育長

英語教育のこれまでとこれからを、対談形式で語ります。

小学校で教える花井俊太郎先生と中学校で教える中野友理香先生は、英語の授業をより良いものにするために恩師である米田先生のところへ相談にやってきました。今回のトピックは…。

並列する表現のことわざ

花井先生の画像

花井

前回はA is Bの形や一般動詞を使ったことわざを紹介していただきました。他には、どのようなことわざがありますか?

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米田

今日は少しだけ文法的に難しいものも紹介しよう。ただ、子どもたちには細かな文法的な解説よりも、ことわざの意味やリズムなどに注意を向けさせたいね。

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中野

よろしくお願いします!

(1) So many men, so many minds.

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米田

まず最初のことわざ、これは日本語のことわざに当てはめると、「十人十色」と同じだろうか。夏目漱石の『吾輩は猫である』には「よそ目には一列一体、平等無差別、どの猫も自家固有の特色などはないようであるが、猫の社会にはいってみるとなかなか複雑なもので十人十色という人間界のことばはそのままここにも応用ができるのである。」とある。同様の表現にSo many countries, so many customs.(色々な国に色々な習慣がある)、つまり「所変われば品変わる」というのもある。

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中野

「十人十色」と言いつつも、「men」しかいないのは残念ですね。

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米田

たしかに、鋭い指摘だ! 多様性の時代と言われるけれど、教師の方も日々考えをアップデートしていかなければいけないね。

(2) No pain, no gain. (No pains, no gains.)

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米田

このことわざは直訳すると、「痛みがなければ得るものはない」となるね。失敗や挫折などなく、目的を達成することはできない、つまり「成功には苦労はつきもの」ということ。

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花井

レコード屋さんのNO MUSIC, NO LIFE.(音楽のない人生は考えられない)というキャッチコピーを思い出しました。

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米田

キャッチコピーを作るときに参考にしたのかもしれないね。子どもたちにも機会を与えて作らせてみたらどうだろうか。面白いものが出てくると思うよ。NO BOOKS, NO LIFE. NO LEARNING, NO LIFE. のようなものは出ないかな(笑)簡潔で言いやすいから、No pain, no gain. Hang in there!(努力無くして得るものなし! 頑張って!)というような「応援」などに使えるものもできるかもしれないね。

There is / are ~のことわざ

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米田

There is / are ~の構文が出てくると、色々な表現を提示することもできるだろう。

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中野

There is / are ~の構文は生徒もつまずきやすいので、このタイプのことわざにたくさん触れさせるのは良いかもしれませんね。

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米田

そう願いたいね。

(3) There is no smoke without fire.

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米田

まず1つ目。これは「火のないところに煙は立たぬ」だね。No smoke without fire. とも言う。自然現象のみならず人の社会においても全ての結果には原因がある。Nothing comes of nothing. 「無からは何も生じない」つまり「蒔かぬ種は生えない」だね。

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花井

ここではnoとwithoutと2つの否定語が使われていますから、すぐにはどんな意味なのかをつかむのは難しそうです。

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中野

でもそれを逆手に取って、どんな意味なのかクイズ形式にしてしまうのはどうでしょう?

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米田

いいアイデアだね、教師が解説するよりも、子どもたちに考えさせる方が盛り上がるかもしれないね。なかには、noとwithoutの二重否定を、数学的にno(-)×without(-)で(+)になると捉えて理解する子どももいるかな。

(4) There is no place like home.

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米田

これは、「わが家にまさるところなし」、すなわち「住めば都」ということ。昔は「狭いながらも楽しいわが家」という言葉もよく聞いたものだ。アメリカの劇作家ジョン・ハワード・ペイン(John Howard Payne, 1791~1852)によって作詞されたHome,Sweet Home 「邦題:埴生(はにゅう)の宿」にも次のような歌詞がある。Be it ever so humble, there’s no place like home.(いかに貧しくともわが家にまさるところなし)

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中野

これも生徒と一緒に「There is no ~ like ...」の「~」と「...」に入るものを考えさせても良いかもしれません。私もいつか、There is no teacher like Nakano-sensei. と言われるように頑張りたいです。

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米田

いいね! その気持ちを大切に!(笑)

接続詞を用いたことわざ

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米田

さて次は、接続詞が使われるものから探してみようと思う。そろそろ難しいものも多くなってくるので、授業で紹介する際には十分に選別してからにしよう。

(5) Look before you leap.

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米田

直訳すると「跳ぶ前に見よ」、日本語のことわざでたとえると「転ばぬ先の杖」だろうか。これは『イソップ物語』の「キツネとヤギ」から。井戸に落ちたキツネが、通りがかったヤギに井戸の美味しい水を飲むよう誘い込み、井戸に落ちたヤギの背中に乗って自分だけ穴から出た、という話からきている。行動を起こす前には周到な準備や状況判断が大事だという教訓がある。『イソップ物語』は難しい部分もあるが、retoldされたものが色々あるので、中学校3年生あたりで読ませてもよいかもしれない。

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中野

2023年に亡くなった大江健三郎氏の小説に『見るまえに跳べ』というのがありますが、元々は逆だったんですね。

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米田

そうだね。ウィスタン・ヒュー・オーデン(Wystan Hugh Auden, 1907~1973)という詩人がLeap before you look. という詩を書いたのだが、あれこれ考えすぎて行動できなくなってしまうより、実際に行動を起こせ、という意味になっている。

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花井

本当にどちらが正しいとは言えない問題ですね。子どもたちにも色々なタイプがいるので、それぞれにとって教訓とすべき内容は変わってくるかもしれません。

(6) Don’t count your chickens before they are hatched.

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米田

直訳は「卵は孵(かえ)らないうちに雛(ひよこ)の数を数えるな」。こちらも『イソップ物語』から。ある農家の娘が搾ったばかりのミルクを売りにいく途中、「売ったお金で卵を買い、それを孵らせ鶏を育てて売れば素敵なドレスや靴が買える」などと空想しているうちにミルクをこぼしてしまう、というお話。結局、彼女の思いは遂げられなかった。

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花井

日本のことわざだと「取らぬ狸の皮算用」ですね。私もよく先走りしてぬか喜びしてしまうことがあります。ついでに「ぬか喜び」の語源はどんなのかも調べてみたいです。

米田先生の画像

米田

よし、いいぞ!

比較級・最上級を含むことわざ

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米田

さあ、最後に比較表現を使ったことわざを紹介しよう。

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中野

比較表現は、たくさんのことわざや格言がありますよね。

(7) Health is better than wealth.

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米田

これは「健康は富にまさる」ということだ。どんな世の中であっても、やはり健康が第一であることは次第に実感できるようになる。あの世ではこの世のお金は使えない。実際、私たちの生活を考えると、Money leaves us without saying anything.(お金は何も言わないで私たちから離れて行ってしまう)の方が理解できるね。余談だが、Money talks and it usually likes to say “bye-bye.” というのも分かるね(笑)

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花井

いずれ、この表現パターンを使って「~ is better than ...」の「~」と「...」を考えさせると面白いかもしれませんね。

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米田

うん、いいね。healthとwealthで韻を踏んでいるところにも触れたいところだね。

(8) Hunger is the best sauce.

米田先生の画像

米田

これは「空腹は最高の調味料だ」という意味だね。お腹が減っているときは何を食べても美味しい。これは誰もが共感できるだろう。生徒もことわざの勉強で疲れたらお腹も空いてくるだろう。

中野先生の画像

中野

「~ is the best ...」という形で、生徒の色々な考えや、好きなことなどを引き出せると良いですね。好きな教科やスポーツ、趣味など身近なことを表現してみたり、それから実在する格言のような文を作り出してみたりする子も出てくるかもしれません。

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米田

うん、それもいいね。


米田先生の画像

米田

さて今日は、たくさんのことわざを紹介したけれど、他にも有名な人物の名言と言われるものを紹介するのも良いだろうね。例えば、キング牧師の「I have a dream.(私には夢がある)」のような簡単で短いものや、マザー・テレサの「Love is doing small things with great love.(愛とは大きな愛情をもって小さなことをすることです)」など。あるいは、もっと身近な人物の残した言葉でも、将来にわたって自分自身を励まし、支えるものになることもある。

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花井

子どもたち自身に好きな言葉を探させるのも良いかもしれませんね。

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中野

子どもの頃の胸を打たれるような言葉との出会いは、一生大切になっていきます。

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米田

そうそう、そういう出会いを教師である君たちが作り出せると素敵だよね。

米田先生の画像

米田

最後に、早いうちに覚えておけば、ずっと役に立ちそうなことわざや名言をアルファベット順にしたシートをあげよう。たくさんのことわざや名言があるので、あまり欲張らず先生自身も一緒に覚えていこうという気持ちでいいと思う。丁寧に調べていくとさらに学びが広がるし深まっていくはずだよ。

ことわざ・名言 おまけシート(370KB)

第10~11回 参考文献

  • 奥津文夫『ことわざの英語』(講談社現代新書)
  • 安藤邦男『テーマ別 英語ことわざ辞典』(東京堂出版)
  • 安藤邦男『ことわざから探る英米人の知恵と考え方』(開拓社)
  • 畠山雄二『英文法が身につく教養としての英語ことわざ100選』(明日香出版社)
  • 秋本弘介『新版 英語のことわざ』(創元社)

米田進(よねた・すすむ)

秋田県教育委員会前教育長

1951年秋田県生まれ。東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業。秋田県立高等学校教諭・校長等を経て、2011~2020年度まで秋田県教育委員会教育長。

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