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第12回 辞書や語源を活用して語彙を広げよう

英語教育 温故知新

2024年6月24日 更新

米田進 秋田県教育委員会前教育長

英語教育のこれまでとこれからを、対談形式で語ります。

小学校で教える花井俊太郎先生と中学校で教える中野友理香先生は、英語の授業をより良いものにするために恩師である米田先生のところへ相談にやってきました。今回のトピックは…。

辞書の活用

花井先生の画像

花井

米田先生、前回までに英語の歌とことわざについて教えていただきました。あらためて児童・生徒の英語力を高めていきたいと考えたときに、単語学習は欠かせないと思うのですが、どうすれば無理なく教えることができるでしょうか。

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米田

語彙の習得は、英語学習の永遠のテーマだね。決して楽な道はないから、地道にコツコツと積み重ねていくしかないけれど、語彙学習のマストアイテムである辞書について少し触れてみようか。

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中野

中学生になると辞書を使うことも増えてくるので、ぜひお願いします。

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米田

うん、わかった。学校では今の子どもたちは小学校3年生の外国語活動から英語に触れるわけだけど、その段階から英和辞典を使うのは少し無理があるかもしれないね。最近の教科書や教材を見ると、英語と日本語をそれぞれ対比させるword listのような形で単語を提示している。あとは、決まった表現を載せて、子どもたちが覚えられるように配慮している。

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花井

子どもたちがlistに載った単語や表現を覚えるのも大変なことではありますが、教科書以外の語彙を増やしたり、色々な表現を身につけていったりして欲しいという思いもあります。

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米田

そうだね。教科書の範囲を超えて、子どもたちにどんどん新しい英語の表現を身につけていって欲しいよね。私が高校で教えていた頃にこんなことをしたことがあったな。当時、私が大学時代に使ってボロボロになった辞書を、わざと机の上の目立つところに置いていたんだ。いろいろな用事でやってくる生徒たちの目に触れるようにして、生徒の刺激になればという思いだったんだよ。

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中野

たしかに、英語に興味のある生徒であれば、先生が使い込んだ辞書やその使い込み方が気になってくるかもしれませんね。

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米田

今の中学生向けなどの初級の辞書は種類も増えているし、何よりどの辞書を見ても楽しくなる内容と構成になっている。絵や写真も豊富で基本となる単語についての説明がとても充実している。それに類似の単語があれば比較・対比しながら用法を説明したり、具体的にミニダイアログを入れたり、至れり尽くせりだ。

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花井

小学校でも6年生くらいになったら、手のとどくところに英和辞典を置いておけば興味を持つ子が出てくるかもしれませんね。

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米田

そう、これを利用しない手はないと思う。電子辞書ももちろん便利だけど、紙の辞書は、ある単語を調べるために辞書を開くと、1つの単語の情報だけでなく、その前後のたくさんの単語にもご挨拶できる。解説の絵図、写真などにも会える。電子辞書より記憶に残りやすいという利点もあると私は感じているよ。

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中野

インターネットの辞書や電子辞書にはアクセスしやすいというメリットもありますが、単語の意味を短く簡潔に掲載しているものも多いので、細かな用例にまで触れることができなかったりもしますね。

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米田

辞書には単語の意味だけではなく、さまざまな情報が載っているということを教えてあげたいね。「音節」「発音」「アクセント」「語形変化」「派生語」「例文」「熟語」「語法」など…。1つの単語を調べる作業をする中で、プラスアルファの知識や情報が得られるということになる。意欲のある子どもには中学校卒業までに1つの辞書をまるまる覚えてしまおうと言ってもいいかとさえ思っているよ。

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中野

わわっ! それはすごい財産になりますね!

英語の語源から単語を覚える

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米田

辞書の話から、この機会を利用して語源を覚えることの効用について考えてみよう。まずは接頭辞(単語をパーツに分けた時に、語の先頭について、方向・時間・位置・数などの意味を持つ)について、それから単語の中核をなす語根について紹介して、語彙の増強に繋げようという話だ。

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花井

英語の語源を調べていくとヨーロッパのさまざまな言語の歴史を辿れますよね。歴史好きとしては、そちらにも寄り道してしまいそうです。

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米田

うん、そうだね。英語だけでなく他の国の文化や歴史にも興味がある子には、そういうアプローチもいいかもしれないね。では戻って、接頭辞の例をあげてみよう。例えば、楽器のtriangle (トライアングル)などは小学生でも馴染みがあるだろう。この接頭辞であるtri-は「3」の意味を表す。angleは「角、角度」という意味だから、この楽器が三角形であることが分かる。そして同様にtri-の接頭辞を持つtricycleが「三輪車」を表すことを教えていいだろう。

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中野

この解説をしたら、生徒はどんどんtri-の付く単語を探し始めるかもしれませんね。

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米田

スポーツの好きな子ならtriathlon(トライアスロン、3種競技)やtriple(3つ組の、3倍の)などはすぐに思いつくかもしれないよ。

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花井

フランス国旗を表すtricolor(3色旗)もtri-のつく言葉ですね。青と白そして赤の3色。

米田先生の画像

米田

同じように、「bicycle(自転車)」が出てきたら、bi-が「2」を表すことも紹介しておきたい。bilingual(2か国語を話す)、biathlon(クロスカントリースキーと射撃を組み合わせた2種競技)など、こちらもたくさんある。ついでに、「単一の」という意味を表すuni-についても紹介しておこう。uniform(制服)、unique(ただ1つだけの)からunicycle(一輪車)も覚えることができる。

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中野

これで一輪車から三輪車まで全部覚えられますね!

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米田

そうだね。私が乗れるのは二輪車だけなんだけどね。(笑)

教科書掲載の単語を語源から解説

米田先生の画像

米田

さて、中学校の教科書『Here We Go!』に載っているものから、語彙を増やすヒントになりそうなものを紹介していこう。

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中野

ぜひ明日から使えそうなものをよろしくお願いします。

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米田

そうだね、例えばanimalは「動物」という意味だけど、元々、animaはラテン語で「生き物」や「精神」の意味を持つんだ。animalは「息をするもの」から「動物」という意味を表し、animateは「息をする」から「命を吹き込む、アニメ化する」という意味になった。そして名詞形のanimationができる。今はanime(アニメ)も教科書に入っているよね。

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花井

animalとanimationが同じ語源だというのは、言われてみればなるほどという気がしますが、これまで全然気がつきませんでした。

米田先生の画像

米田

他にも、athlete(アスリート)という言葉は、陸上競技の運動選手などの意味で日常的に使うようにもなっているが、もともとは「賞金目当ての闘技者」という意味があったという。このathleteを覚えていれば、athletics「(運動)競技」も分かるし、前に述べたbiathlon,triathlonも、それぞれ「2種競技」「3種競技」というのが分かるだろう。 また、小学校教科書『Here We Go!』のPicture Dictionaryにはastronautやaquariumもでている。かなり難しいかもしれないが、astro-はstar(星)の意味を持ち、astrodome(天測窓)やastronomy(天文学)、astrology(占星術、星占い)とも関係があるよ、とかaquaには「水」の意味があり、aquanaut(潜水技術者)などという単語もあるよと教えてもいいかなと思うけど…。欲張りすぎかな?

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中野

なるほど。こうして接頭辞や語根と結びつけて単語を説明すると、記憶に残りやすくなりそうですね。

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米田

その通り。このように1つの単語から、他の関連語に繋げて覚えていくことができれば、語彙力増強のための有効な手段にもなる。まだまだたくさんあるけれど、こうした情報は、辞書はもちろんのこと、「語源事典」「語源大全」といった書籍でも調べることができるので興味がある子どもたちに紹介してあげてもいいと思うよ。

花井先生の画像

花井

私も勉強して授業の引き出しを増やしておきたいと思います。

米田先生の画像

米田

今日は紹介しきれなかったけど、-ful,-less,-sion,-tion,-ness,-able,-ible,-er,-orなど、接尾辞についても紹介していくと、単語学習が容易になることもあるかもしれない。

中野先生の画像

中野

漫然と単語の説明をして、「あとは暗記!」では、生徒も嫌になってしまいますよね。教師が単語学習の切り口をうまく変えることで、生徒も新たな発見をしながら楽しんで英単語を覚えていってくれそうです。

(つづく)

米田進(よねた・すすむ)

秋田県教育委員会前教育長

1951年秋田県生まれ。東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業。秋田県立高等学校教諭・校長等を経て、2011~2020年度まで秋田県教育委員会教育長。

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