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第13回 さまざまな語源~ギリシア神話、イソップ童話~

英語教育 温故知新

2024年7月16日 更新

米田進 秋田県教育委員会前教育長

英語教育のこれまでとこれからを、対談形式で語ります。

小学校で教える花井俊太郎先生と中学校で教える中野友理香先生は、英語の授業をより良いものにするために恩師である米田先生のところへ相談にやってきました。今回のトピックは…。

英語のさまざまな語源

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中野

米田先生、前回は辞書の活用や、英語の語源についてお話しいただきました。一つ一つの語源を解き明かしていくのも楽しいですが、授業で使えそうなお話などはあるでしょうか。

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米田

そうだね。英単語の解説だけでなく、英語を通じて広く深い世界を紹介するのも、教師の重要な役割かもしれないね。今日は少し目線を変えて、英語の語源に迫ってみよう。

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花井

今日はどんなお話になるでしょうか、楽しみです。

ギリシア神話と英語

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米田

英語に限った話ではないが、ヨーロッパの知識の根幹はギリシア神話が支えているといっても過言ではない。君たちは、ギリシア神話についてどれくらい知っている?

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中野

恥ずかしながら、高校の世界史で習った程度です。

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花井

私もさほど詳しくはありません。

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米田

まぁ、大体はそうだろうね。でもギリシア神話について少しでも知識があると、英語についてはもちろんのこと、絵画、彫刻などの美術、あるいは宇宙開発なんかの分野でも関連した言葉やモチーフが使われることに気がつくと思うよ。なかなかハードルが高いと思われるかもしれないが、ぜひ自身の研鑽のためにも触れておいてほしい。

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中野

たしかに、西洋美術などは多くのギリシア神話のモチーフがありますね。美術館に行って解説をなんとなく読んでいただけでしたが、ギリシア神話について少しでも知っていたら、より作品の理解も深まりそうです。

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米田

そうなんだ。ギリシア神話に登場する人物の逸話を知っているかどうかで、きっと絵画の見方は変わってくるだろう。さて、ギリシア神話で最も有名なものといえば、ヘシオドスの『神統記』だろう。もう少し手軽な解説書といえる、『ギリシア神話―神々の愛憎劇と世界の誕生』(KADOKAWA、新人物往来社ビジュアル選書)の一節を紹介しよう。

「万物のはじまりカオス(混沌)とは、天地や海の区別も光もなく、煙や霧、風がたちこめる形のない暗黒の淵のようなものだった。ところがある日突然、このカオスに変化の兆しが見えて巨大な裂け目ができ、そこから胸広いガイア(大地)が生まれた。ガイアは、やがて生まれてくるオリュンポスの神々の始祖、母なる女神であった。」

カオスは英語でも「chaos」として残っているね。

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花井

古代ギリシアの人々が宇宙の始まりを「混沌」と捉えているのはすごいですね。

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米田

すべてのはじまりに、カオスがあった。ということだ。そして、ガイアは神々を生んでいくのだが、その3世代目にオリュンポスの神々―ゼウスを長とする12の神々が誕生する。12の神々とは、ゼウスを頭に、妻のヘラ、子どもたちアテナ、アポロン、アルテミス、ヘパイストス(ヘラが自力で産んだ)、アレス、アフロディテ、ヘルメス、そしてゼウスの兄姉ヘスティア、デメテル、ポセイドンのことである(ハデスは冥界の神となったために含まれていない)。

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中野

どれも名前を聞いたことはありますが、それぞれの逸話を覚えるのは大変そうですね。

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米田

ほんと、そうだね。でも少しずつ読み進めていくと、さまざまな有名な話に辿りついていくんだ。たとえば、「ナルシスト」の語源になっている「ナルキッソスとエコー」の話なんかは授業の中でも触れやすいかもしれないね。他にも「プロメテウスの火」、「パンドラの箱(壺)」、「アリアドネの糸」、「イカロスの翼」など、興味があれば調べて読んでみてほしい。

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花井

たしかに、どれも名前は聞いたことがありますが、どんな逸話かと言われると説明できないですね。次の夏休みに読んでみます!

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米田

それと、ギリシア語由来の英語には、先に挙げたchaosの他にも、cosmos,school,trauma,talent,charisma,drama,plastic,sandalなど身近なものもある。またラテン語とともに、医学用語、哲学用語に接頭辞・接尾辞として使われているギリシア語は多い。それから「学問」などを意味する-logyを含む英語であるanthropology, astrology, biology,psychologyなどもある。折に触れて紹介してみるのもいいだろう。

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中野

英語の中に古代ギリシアの叡智が息づいているのですね。本当に勉強になります。

『イソップ物語』

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米田

次は「ことわざ」でも紹介した『イソップ物語』から有名な言葉などを紹介したい。

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中野

『イソップ物語』なら、子どもたちでも親しみやすいかもしれないですね。

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米田

うん。今日は『The Fox & the Grapes(キツネとぶどう)』を紹介しよう。この逸話に登場する「sour grapes(酸っぱいぶどう)」は辞書では「負け惜しみ」という意味になっている。WORDSWORTH CLASSICS版では次のような英語で書かれている。

A hungry fox saw some fine bunches of grapes hanging from a vine that was trained along a high trellis, and did his best to reach them by jumping as high as he could into the air.
But it was all in vain, for they were just out of reach: so he gave up trying, and walked away with an air of dignity and unconcern, remarking, “I thought those grapes were ripe, but I see now they are quite sour.”
「お腹をすかせたキツネが、高い棚につるされたぶどうの木に、立派なぶどうの房がぶら下がっているのを見つけた。しかし、どんなに高く飛んでも無駄で、房は手の届かないところにあった。だから彼は諦めて、堂々と威厳を保ちつつ無関心を装いながら、『あのぶどうは熟していると思ったけど、今見ると結構酸っぱいな』と言い、歩き去った。」

他にもI’m sure the grapes are sour. などと言って諦めることもあるかもしれない。

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花井

この話であれば、小学生でもすぐに理解できそうですね。日常の中の「酸っぱいぶどう」がどんな時に現れるか、エピソードを話し合うのも面白いかもしれません。

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米田

『イソップ物語』には実に多くの教訓と示唆に富んだものが多い。今日紹介したもの以外にも、『The Mice in Council(ねずみの会議)』という話に出てくる「bell the cat(猫の首に鈴を付ける)」という表現や、『The Hare & the Tortoise(ウサギとカメ)』に出てくる「Slow and steady wins the race.(ゆっくり着実にやれば、必ず競走に勝つ=急がば回れ)」など、興味があれば読んでいってほしい。ペーパーバック版はもちろん、rewriteしたものだともっと楽に読めると思う。子どもたちにもぜひ紹介してもらいたい。

中野先生の画像

中野

短いお話であれば、生徒も辞書を引きながら読んでいけるかもしれませんね。

米田先生の画像

米田

最後に、おまけでもう一つ。『Mercury & the Woodman(きこりとメルキュール:金の斧、銀の斧)』という話がイソップ物語に入っている。日本でも有名なお話だが、これは小学校1年生の道徳の教科書『どうとく1〈きみがいちばんひかるとき〉』(令和6年度版、光村図書)にも収録されているんだ。「きんのおの」という題で載っていて、主題は「しょうじきなこころで」となっている。このお話は「Honesty is the best policy.(正直は最良の策)」ということを教えている。人間が生きていく上で一番大切なことは正直であることだと思う。どんな時でも心に留めておきたい。

花井先生の画像

花井

教師が「英語を教える」といっても、実際にはさまざまな考え方だったり、生き方を見せていくものだったりします。子どもたちはそんな教師の姿をよく観察していますから、襟を正して授業に臨みたいと思います。

米田先生の画像

米田

その意気だ。頑張っていこう!

(つづく)

米田進(よねた・すすむ)

秋田県教育委員会前教育長

1951年秋田県生まれ。東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業。秋田県立高等学校教諭・校長等を経て、2011~2020年度まで秋田県教育委員会教育長。

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