みつむら web magazine

美術鑑賞研修リポート

セミナーリポート

2018年11月30日 更新

光村図書

美術鑑賞研修リポート

鑑賞教育充実のために

2018年8月6日(月)・7日(火)に東京都内の美術館で行われた指導者研修のリポートです。

美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修

2018年8月6日・7日に国立西洋美術館と国立新美術館で、小・中・高等学校の先生や美術館学芸員を対象とした、鑑賞教育の研修会が行われました。小・中・高等学校のグループに分かれ、美術館の所蔵作品を鑑賞し、授業に生かすにはどのような取り組みができるかを話し合いました。今回は中学校グループのうち、濱脇みどり先生(サブファシリテーター:道越洋美先生)のグループをリポートします。

表現に生かすための美術鑑賞

濱脇みどり先生のグループは、ポール・ゴーギャン「海辺に立つブルターニュの少女たち」(1889年、国立西洋美術館蔵、松方コレクション)を取り上げ、対話による鑑賞を行いました。まずは3分間、参加者の先生たちは一人でじっくりと鑑賞し、その後、全員で描かれている対象についてや、気になったことなどを話し合いました。

画像、鑑賞教育充実のための指導者研修
ポール・ゴーギャン「海辺に立つブルターニュの少女たち」

「二人の女の子の視線が気になる」「何かよくないことが起きる感じがする」などと意見が出た後、同じくゴーギャンが描いた「ブルターニュ風景」(1888年、国立西洋美術館蔵、松方コレクション)を比較鑑賞していきました。濱脇先生からは「どちらの作品が先に描かれたものか」という問いかけがありました。

画像、鑑賞教育充実のための指導者研修
「海辺に立つブルターニュの少女たち」(右)と「ブルターニュ風景」(左)

参加した多くの先生が「ブルターニュ風景」のほうが、先に描かれたものであると答えました。「ブルターニュ風景」は、描かれている景色や人の輪郭がぼやけている一方、「海辺に立つブルターニュの少女たち」は人物の輪郭がはっきりとしています。ここに目をつけた先生からは、「圧倒的に『海辺に立つブルターニュの少女たち』のほうが、作者の意志を感じる」「作者は何を伝えたかったのだろうか」と発言が続き、自然と作者の意図を考える流れになりました。

画像、鑑賞教育充実のための指導者研修
鑑賞する絵画の前に座り、円になって話し合う。

作者の意図を考えるにあたって、濱脇先生からは「この絵が描かれた時期についても考えてみてください」と投げかけがありました。すると、「この絵が描かれたのは近代ですよね」「やっぱり少女たちの目が何かに抗っている感じがする」「近代化への抵抗なのではないか」などと意見が出ました。ここまで意見が出たうえで、濱脇先生は初めて作品のキャプションを紹介しました。

画像、鑑賞教育充実のための指導者研修
「海辺に立つブルターニュの少女たち」のキャプション

キャプションには、次のように書かれていました。「(中略)彼は自然の忠実な再現よりも主観的な感覚を重視し、やがて象徴主義画家の旗手となります。本作に描かれたブルターニュ地方の少女たちの訝しげな眼差しや逞しい素足は、ゴーガン(キャプション原文のまま)が彼女らに認めた素朴さや野生の片鱗を示しています。」

この作品は、ゴーギャンがさまざまな画家と交流をもちながら自らの描き方を模索し、確立させた作品であるといわれています。少女たちの荒っぽいいで立ちは、野生的・原始的なものを追い求めたゴーギャンの姿勢があらわれているかのようです。
濱脇先生がこの作品を選んだ理由として、「野生」「素朴」といった作者のテーマがわかりやすく描かれていることを挙げていました。「主題という概念を理解することは、なかなか容易ではありません。この作品は、子どもたちが主題について考えるときのヒントになるかもしれないと思って取り上げました」と濱脇先生。

画像、鑑賞教育充実のための指導者研修
グループに分かれて話し合いをする。

対話による鑑賞をした後は参加者の課題意識に沿って、「対話による鑑賞グループ」「美術館との連携グループ」「鑑賞の評価グループ」の三つのグループに分かれて、話し合いを行いました。
「鑑賞のゴールは1年生と2・3年生で変えたほうがいいか」「美術館と連携して、子どもたちにジュニア学芸員をさせたいが、どうすればいいか」「文章を書くのが苦手な子をどう評価しようか」などと、さまざまな論点が挙げられ、それぞれのグループで解決策を考えていきました。参加者の先生ご自身の経験や、他の研究会で得られた情報などを交換し、相互に具体的なアドバイスがされました。

画像、鑑賞教育充実のための指導者研修
論点と解決策はメモにまとめていく。

最後に、グループ全体で情報を共有し、会を閉じました。参加した先生からは、「鑑賞活動の際、どこに視点をもたせるかが大事だと思った」「自分の地域で美術科教員が一人だけで、いつも一人で悩んでいたので勉強になった」「本物の作品の前で鑑賞することの体験的な価値を感じた」などと感想が述べられ、とても充実した時間になりました。

この「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」は、毎年夏に行われており、来年2019年は大阪での開催になります。鑑賞教育の指導をより深めるためにも、ぜひご参加ください。詳細は独立行政法人国立美術館のホームページに公開される予定です(例年2月下旬から3月上旬に実施要項を公開)。

独立行政法人国立美術館 国立美術館が取り組む研修事業

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集