教科書の言葉 Q&A
2016年2月15日 更新
教科書編集部 光村図書出版
教科書にまつわる言葉へのさまざまな疑問について、編集部がお答えします。
第13回 「とる」の漢字の使い分けは?
Q:「とる」を漢字で表すとき、「取る」「採る」「捕る」など、どのように使い分ければいいのでしょうか。
「とる」という言葉は、たいへん多くの意味をもっていますが、「常用漢字表」で「とる」という訓が示されている漢字は、「取」「採」「執」「捕」「撮」の5文字で、それぞれの字義・用法は以下の通りです。
◇取
捕虜や敵の耳を戦功のしるしとして、しっかり手に持つこと。指を引き締めて手の中に握る。自分のものにする。
「取材」「取得」「取捨」「奪取」
◇採
手の先で木の芽をつまみとること。ある部分だけを選びとる。
「採集」「採用」「採決」「採録」
◇執
手かせをはめて罪人をとらえること。手にしっかり握る。仕事や職務をしっかり行う。
「執筆」「執行」「執務」「固執」「執念」
◇捕
対象に手をぴったりと当てること。とらえる。つかまる。
「逮捕」「捕縛」「捕手」「捕虜」
◇撮
指先にごく少量つまみとること。必要な部分だけをとる。
「撮影」
この5文字のうち、小学校で学習するのは「取」と「採」の2文字です。上に示したような字義・用法と関連して、次のように使い分けられます。
◇「取る」を使う用例
手に取る・着物の汚れを取る・資格を取る・草を取る
間を取る・一位を取る・大事に取っておく・休みを取る
責任を取る・記録を取る・すもうを取る
◇「採る」を使う用例
血液を採る・社員を採る・会議で決を採る・銅を採る・一部分を採る
用例にも表れているように、「取る」はかなり広い意味で使われています。そればかりでなく、「取り上げる」「受け取る」「引き取る」「買い取る」「手間取る」「取り扱う」「取り除く」のように、複合語としても「取る」が多く使われており、「取る」は一般的表記と考えることができます。
例えば「西洋文化をとりいれる」という場合、「取り入れる」とすることも、「採り入れる」とすることもできます。「取り入れる」は一般的な表記で、辞書ではこの表記をしているのが普通ですが、この場合、「取る」には特別強い意味が込められているわけではないと考えられます。
これに対して「採る」は、用例にもあるように「選びとる」「必要なものをとりあげる」意味が強い場合に使われます。ですから、「採り入れる」と表記すると、文明や言葉をとり入れるのに意識的な選択がなされていることが強調されます。
同じように「とりあげる」という言葉も、普通は「取り上げる」と書き表しますが、特に採用とか採択とかの意味を強めようとする場合は、「採り上げる」と表記することがあります。
ちなみに、「執」「捕」「撮」も、「事務を執る」「トンボを捕る」「写真を撮る」など、意味を限定するときに使われます。
次回は、漢字の正しい書き方についてお答えします。